大江健三郎『取り替え子』のこと

取り替え子 (講談社文庫)

取り替え子 (講談社文庫)


感動しました。大感動しました。
これがノーベル文学賞のポテンシャルやで・・・

「田亀システム」「センダックの絵本」「取り換え子」「アレ」
さまざまなモチーフを縦横自在、支離滅裂に使いこなして、
それでもその美麗なというか、どこかつきぬけたような美しさで維持される文体が紡ぐのは、
もはや物語なのかエッセイなのか私小説なのかもわからない、
伊丹十三的文章構造、とでも呼びたいような一連の文字の塊。
もうこれは文字塊とか、そういうふうな名前でそれを呼びたい・・
それくらいのありえないくらいの、小説などではけっしてない、
文章稼ぎテクニックの極地のような名人芸的なものを見せつけられたという印象。
これは本当にすごい・・だってこんな内容ゼロの、個人的追悼雑文集みたいなもので、
読んだ人にぐっとこさせるんやで・・・さすが左翼基地外の大江さんやで・・・

とにかくこの文章の美しさに圧倒され、その内容の達観ぶりに圧倒され、その精神の引きこもり具合に圧倒され、とにかく圧倒され通し。こんなに意味不明で、奥行きの中に入っていきたいとすら思えないくらい一種グロテスクな天然が日本にあったとは・・言葉を尽くしてもきっと僕みたいなへたれには完全に描写することができない、これが作家、これが文学(「文」の「学」という意味でひたすらに純粋である、という点でこの小説を「純」「文」「学」ということには全然抵抗を感じません)か・・・大岡正平などとはまた違う、というか他と違いすぎる、得たいの知れなすぎる、巨塊・・・これが大江健三郎さんなんやで・・圧倒され通しだ。。。