大岡昇平『酸素』と『化粧』のこと

今日は大岡昇平の2つの作品を読み終えました。


酸素 (新潮文庫)

酸素 (新潮文庫)

酸素、は大岡昇平の未完の作品で、
これからしばらく大岡昇平は未完作品を連発します。
『俘虜記』で出てくる「収容所で考えていた」作品がこれで、
その並々ならぬ期待が空回りしているような、
文章のヒートアップしすぎ感を感じる作品でした。
しかし作品の質は悪くとも文章の質は高く、
後半の霧のゴルフ場のシーンはなかなか印象的です。


化粧 (1954年)

化粧 (1954年)

一方『化粧』は完結作ながら完全になかったことになっているようで、
ネットでも他にレビューを見ませんでした。
内容は生き別れた姉を探すべく孤児院を抜けた少年の冒険もの。
しかし少年が不良なのかピュアなのかハッキリせず、
登場人物の性格やいる意味みたいなのがすべからくボヤボヤです。
ただ『事件』など今後のミステリーものを予感させる
サスペンス場面の描写やキャバレーでの会話シーンなど、
細部の描写は大岡昇平の現代もの小説のスタイルの規範が
ほぼ完全にこの作品で出揃ってしまったことを伝えてくれます。

大岡昇平のおしむらくはとにかく自分で自分の嘘に我慢できないのか、
いきなり全部を打っちゃろうとしてしまったりして、
グダグダな話をさらにグダグダにするところなのかな、
と思ってしまいました。
この作品も何だかスケールがでかくなったりしぼんだり、
統一感がまるでないのでそこのところがよくわかります。